なぜフェノールは抗酸化作用があるの? 理科の学びなおし

前回の記事ではフェノールが酸性を示す理由を調べました。

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今回は抗酸化作用について考えていきたいと思います。

 

抗酸化作用とは、名前のとおり酸化に抗う作用です。そもそも酸化とは、電子のやりとりによって発生するものでした。この電子を捕捉することによって酸化反応を停止させる働きがあります。

電子を・、フェノールをArOH、基質をRまたはROOHとした式ですと以下のようにあらわせます。

 

ROO・ + ArOH ⇆ ROOH + ArO・

R・ + ArOH ⇆ RH + ArO・

 

フェノールArOHがフェノキシルラジカルArOH・になるということは、O-H結合が解離していることを指します。

つまりは、O-Hの結合解離エネルギーが他の物質と比べて低いことと言い換えることができますね。

 

これは前回同様にArO・が共鳴安定化するため、エネルギーが低い、そう説明されています。

 

 

 

それでは同じくO-H結合のあるアルコールやカルボン酸は抗酸化作用がないのでしょうか?

まず、アルコールR-OHは一般に共鳴安定化することができません。実際アルコールには抗酸化作用がありません。ですので、共鳴安定化という説明でよさそうです。一方カルボン酸R-COOHは二重結合が隣接するため共鳴安定化することができます。しかし、カルボン酸には抗酸化作用がないのです。

つまり、共鳴構造式が書けて安定化すると説明することに難があるのです。

 

そもそも、フェノールよりカルボン酸の方が酸性が強い、RCOOHのO-H結合が外れやすいのです。

したがって、結合の外れやすさのみで議論するのも難しいのです。

 

 

 

話を整理しましょう。

❶抗酸化作用とは電子・を捕捉する作用を指します。
❷捕捉するためには、もともとある結合を解離しなければなりません。つまり結合の解離しやすさが、抗酸化作用の強さと表現できそうです。

 

❸一方酸性の強さはRO-HがRO⊖とH⊕への電離しやすさと表現することができます。

 

❹フェノールのArO-HのOとHの結合は外れやすいです。
❺一方、カルボン酸のRCOO-HのOとHの結合は、フェノールより外れやすいです。

 

❻ ❹と❷より、結合が解離しやすいので、フェノールは抗酸化作用があります。

❼ ❺と❸より、結合が解離しやすいので、カルボン酸の方が酸性が強く、フェノールの方が酸性が弱いです。

 

❽ しかし、❺よりカルボン酸の方が結合が解離しやすいのに、カルボン酸には抗酸化作用がありません。

 

 

 

これは、結合解離という現象が2種類混在しているため起こり得るパラドックスだったのです。

共有結合とは、お互いに最外殻電子を1電子ずつ共有しあってできる結合でした。ArO・と・HがArO:Hの状態になるわけですね。

この結合の外れ方は①もとのArO・と・Hになる均等開裂、②ArO:⊖とH⊕になる不均等開裂の2種類存在します。

 

実は①の均等開裂のしやすさを示すのが結合解離エネルギーなのです。フェノールとカルボン酸ではおよそ100kJ/molほどの差があるといわれています。カルボン酸は①はしにくく②が起こりやすいというわけです。

 

 

 

さて、それでは話は元に戻ります。O-Hの結合解離エネルギーが他の物質と比べて低い理由はなぜでしょう。

 

フェノキシルArO・の静電ポテンシャルをみると、対称的に分布していることがみられます。計算によるとHOMOとSOMOのエネルギー差が少ないようです。SOMOは1電子の場合の考え方です。もとの HOMO を SOMO、もとのLUMO を SOMO’とするとわかりやすいと思います。つまりは、ひろく局在化していないことを意味します。

 

こういうのを一般に共鳴安定化と呼ぶのかもしれませんが、共鳴構造式を書ける書けないだけでは応用できない話題でした。