思惟かねさんのnote(以下、本記事)を読み、
あらためてVRChatとSNSについて考えてみようと思います。
私たち本記事ではVRChatを既存のSNSと比較しています。LINE、X(Twitter)、Instagram、Tik TokのSNSを利用目的・グローバル/ローカルで要素分解し、これをニーズをもとにフレームワークを使って比較と分析、VRChatはどうか考察をしています。非常に面白かったです。
本記事はマジョリティの一般層とくにZ世代をターゲットに新規開拓をテーマにしていました。それに対して、私自身は原住民ですので、原住民の肌感覚を書き記していこうかなと思います。
原住民のボリュームゾーンは20代~30代だと思いますのでZ世代よりも少し上の世代となるでしょう。私たちのSNS感覚は、思春期のころに個人ページやブログを経て、ガラケーの時代にmixi、モバゲー、gleeなどで芽生え、前略プロフィールが黒歴史になり、震災後スマホが普及し大学生や社会人になってLINEやTwitter、Facebookを使って友人とコミュニケーションをとることで成熟し、平成が終わるころから知らない人とマッチングアプリであって、知ってる人とは今でもLINEで連絡とり続ける、Instagramに関しては電話の代替にも応用している。そんな感覚が共有できるでしょう(平成が終わるころから――を共有できない人もいるかもしれません)。
本記事はSNSの利用目的を「情報収集」「娯楽」「交流」「発信」の4つに分けています。私の場合はそもそもこの利用目的というのが曖昧と感じます。結果的にその4つに集約されているということはもちろんあるのですが、SNSを利用しようと試みる動機は別のところにあるかと思うのです。というのもなんとなく「つながっている」という意識が欲しくてやっているところがあります。そういう意味ではローカルな交流に当てはまるのかもしれません。ですがそれとはちょっとニュアンスが違うかなとも思うのです。
Twitter、Facebook、Instagram、Tik Tokは機能として「発信」がメインでしょう(こちらのグループを投稿型SNSとします)。発信というフォーマットが先にあって、その他の目的やグローバル/ローカルの差が後から生まれるのでしょう。例えばつぶやきをみた人が面白いと思えば娯楽になります。例えば鍵垢を使えばローカルなものにできるし、そうでなければ、RTなどすればもっとグローバルなものになります。
一方でLINEは「交流」の機能がメインになると思います。本記事にもありますがDiscordなどの通話アプリもこれにあたるでしょう(こちらのグループを通話型SNSとします)。LINEは本記事に書かれている通り複垢が難しく、電話番号の役割を担っているとてもローカルなものです。対してDiscordなどは比較してグローバルなものともいえるでしょう。
どちらも「つながっている」感があります。通話型SNSは会話によって自己をそのままぶつけてコミュニケーションしているので、わかりやすく「つながっている」感があります。投稿型SNSは投稿に対しての反応はもちろん、堆積した投稿が自己を形成するように思え、それをみた他者が反応してくれるところに「つながっている」感があります。そういった「つながっている」感の取得が先行して、娯楽や交流などの目的に続くのかなと思います。
とくにわれわれ世代がSNSを利用している感覚があるのは後者、投稿型のほうではないでしょうか。
そしておそらく、ローカルな交流をしているんだなと俯瞰してわかり合える感覚、これが「つながっている」感なのではないでしょうか。
まとめると、SNS利用の動機は「つながっている」感であって、SNS利用の目的はローカル(一部グローバル)な「発信」と「交流」になるのでしょう。
本記事の言葉を使うのであれば、①親しい友人との交流(ローカル)の重視と③ローカルでの気軽な発信による交流の活発化にあてはまるのではないでしょうか。
対して「情報収集」や「娯楽」は別のプラットフォーム、ニュースサイトやYouTubeやNetflixを使うことが多いのではないでしょうか。
もちろん、Z世代でいう情報が流れてくるという感覚もわかります。なぜなら、マスメディアの公式アカウントがSNSにあってそれをフォローしたり、RTでまわってきたりしたら自分のTLに流入するからです。でもわれわれの世代がSNSをやっている肌感覚としてはこれは当てはまらないのかなあと思うのです。
さて、私はVRChatをどのような肌感覚で使っているでしょうか。
これは本記事でも指摘されていることですが、VRChatはSNSとしての不十分さがあるのです。そして他のSNSによって補完されている面が多いのです。
例えば、イベントの画像や感想をX(Twitter)に投稿することが多いでしょう。これはVRChatの機能だけでそういった感想の共有、グローバルな発信ができないからです。本記事の言葉でいうところの⑤機能別での複数SNS併用はすでに原住民が十分にしているのです(本記事ではシームレスな移行ができないことを指摘しています)。
逆に、この不十分な機能が仮想世界という感覚を作っているのだろうと思います。現実世界だって人と人が会って話をするだけしか機能はありませんからそれと似たようなもので。現実世界で今日あったことを発信するSNSと、VRChatで今日あったことを発信するSNSが同系統である、こういったことが結果的にではありますが仮想世界っぽさを演出しているのではないでしょうか。
現実世界では、LINEで予定を決めて、写真を撮ってInstagramにアップする。
VRChatでは、Discordで予定を決めて、写真を撮ってX(Twitter)にアップする。
こういった対比があるので、現実世界の対になる概念として仮想世界だと認識することができるのでしょう。
これがたしかにSNSなんだけれども、既存のSNSと違うよなあという感覚ではないでしょうか。
また、本記事④効率重視・受動的な利用傾向について。
タイムパフォーマンスといわれ、時間を貨幣として消費活動をしているのはわれわれも同じだと思います。そのため逆説的にVRChatに特別性がうまれるのではないでしょうか。
例えば、いつも節約している人が給料日に贅沢なディナーを食べるなんてことがあるでしょう。お金をケチっている人が贅沢だなと楽しみを求めることは、お金をケチらないことなのです。
つまり、タイムパフォーマンスを気にしている人が贅沢だなと思うのは、時間を気にしない、タイパが悪いところに身を置くことなのです。
家で倍速で映画がみれる社会において、映画館にわざわざ行き、等速で映画をみるのは、贅沢だからでしょう。
こういった贅沢性、「ホンモノ」感、オーセンティシティ(authenticity)がVRChatにはあるのではないでしょうか。
現実世界では、新しいSNSであるBeRealなどがそれにあたるのではないでしょうか。
Z世代の新規開拓は本記事の著者にまかせるとして。われわれ原住民がVRChatを利用している肌感覚として。
生やコミュニケーションなどさまざま現実世界では享受することが難しかった物事に対して、オーセンティシティのあるものとして経験することができ、かつそれを通話型SNSを通して企画したり投稿型SNSを通して感想を言ったり、現実世界と同様のフォーマットを用いて二次的に消費し「つながっている」感を得ている、そんな肌感覚なのではないでしょうか。
Z世代には学校というつながりがありますが、それを卒業した大人たちがそれでも人とつながっていたいときにVRChatを使っているのが私の感覚だと思います。